会津部の時間ですよ!

会津に夢も希望も抱いていない主人公が、会津を楽しむための部活に強制入部させられる物語。(※この物語はフィクションです。たぶん)

≪第24回≫香り高き部室

「部室がイカくせぇ」

小柄なゴスロリ少女ミコは、俺を睨み付けながら呟く。

会津部の部室は、畳部屋である。

なので俺は、畳に寝そべりながら好きな本を読んでいる。

昨日、コンビニで購入したスルメを噛みながら。

なぜスルメなのかというと、本を読むと眠たくなる時がある。

特に、こうやって畳に寝そべりながらだと尚更だ。

なので、眠気予防としてスルメを噛みしめながら読書しているというワケだ。

ミコは、更に俺を睨み付ける。

「あーもう。

今まで女の子だけの空間だったのに、イカ臭い男子が近くにいるって最低だわ。

私のジェミーちゃんまで臭くなっちゃうじゃないの」

そう言いながら、何やらキモい人形を撫でている。
コイツは一体、キモい人形を何体所有してるんだ。

俺は視線を本に落としたまま

「うるせぇぞ地雷女。
元はと言えば、テメーが俺に部活から逃げられなくする呪いをかけたんだろうが。

俺は、ここで自由にしていいって言われたから自由にしてるだけだっつーの」

ぐぬぬ、誰が地雷女よ…」

それにしても変な部活だ。

会津部と言いながら、部員の全員が会津とは関係のない活動をしている。

それぞれ、どんな活動をしているか眺めていると…。

どうやら、俺が一番まともらしい。

≪第23回≫美少女の夢は夜に咲く

コンビニでユカが強盗に襲われたり倒したりしているうちに、空は闇夜に染まっていた。

「はぁ…さっきは強盗に襲われたりして、大変だったな~」

そう言うユカは、俺の横にぴたりと並んで歩く。

俺は前を向いたまま

「ていうか、お前はいつまで付いてくるんだよ?
こんなにダイレクトなストーカーはなかなかいねーぞ」

「ちょ、ストーカーだなんて人聞きの悪い!
私の家も同じ方向なんだよ!」

マジか。そしたら毎日コイツと一緒に帰宅(たぶん付いてきそう)する羽目になるの?

なんだろう。急に死にたくなってきた。
帰宅する時ぐらい1人にさせてくれよ。

ユカは、俺のそんな気持ちなど全く汲み取ることなく話かけてくる。

「ユウトくん。明日からよろしくね!」

「はぁ?なにが」

「だから、部活だよ部活!」

「俺は部活って言葉を聞くと、この世を滅ぼしたくなるほどに虫酸が走るんだよ」

「そんなこと言わずに!
普段は部室で好きなことをしてればいいだけだし、たまに週末だけ外で活動するだけなんだから!」

チッ。どうせ拒否しても、また呪いの人形で俺を殺しかけるんだろうな。

俺は立ち止まり、一言。

「ほんとに、何をしててもいいんだな?」

ユカは、闇夜でも光るような明るい笑顔を向けてくる。

「もちろんだ!部長の私が言うんだから間違いない!」

「ふーん。まぁ、常識の範囲内で、好きにさせてもらうよ」

まぁ、常識とか知らんけど。

≪第22回≫俺は、君を人質にできて幸せだった。

強盗は、ユカを羽交い締めにしながら俺を見る。

「おい小僧。お前も俺の邪魔をするんじゃねーぞ。
この、お前の彼女が俺に連れ去られるのを黙って見てることだなぁ!
ヒャーハハハ!」

すると店員は

「すまない、彼氏くん…!なかなか君の彼女を助けることができなくて…!

まぁ、予定では、君の彼女が俺の彼女になる予定ではあるんだけど…!

その点でも、本当にすまないと思っている…!」

誰が彼氏やねん。
そんな狂暴な武士系女、こっちから願い下げだっつーの。

俺はコンビニの出口に向かって歩き出す。

「俺、帰るから。
ユカ、後はよろしく~」


するとユカは、羽交い締めにされながらも身を乗り出そうとする。

「ちょっ…待って!」

すると強盗が

「おい動くんじゃねーよ!大人しく人質になっ…」

そう言いかけた瞬間。

ユカは両手で、強盗が自分を押さえ付けているほうの腕を上下から素早く掴んだ。

そして

「はっ!!!!!!!!!」

その声を発すると同時に
自らの体を勢いよく回転させたと思ったら

ダンっっ!!!!!

強盗を思いきり
床に叩きつけていた。

強盗の手からナイフが落ちた。

店員は素早く駆け寄り、ナイフを拾った。

「ありがとう!今、警察を呼んだ!」

…こうして強盗は、駆けつけた警察官たちに捕獲された。

「ほら、早くパトカーに乗れ!」

そう言う警察官たちに引きずられながら、強盗は振り返り、そしてユカに向かって叫ぶ。

「最後に…最後に、俺は、君に触れられて…密着できて…

その、つまり…

君を人質にできて、幸せだった―――――――――!!!!!!!」

なんだそりゃ。
アイツ、ただの変態なんじゃねーか。

≪第21回≫奪い合いの図。

ナイフを突きつけて金品を要求する強盗に、店員は

「ふざけるなよ!お前のしてることは全部防犯カメラに写ってるんだぞ…!」

すると強盗は

「だったら何だよ!俺は今ここで、お前から金を奪えればそれでいいんだよ!」

「それにしても、いくらナイフを持ってるからって1人で強盗するとかイマイチ心許なくね?」

「だな。もしも店員が、たまたま武術家だったらあっさり返り討ちに遭っておしまいだな」

「だからうるせぇんだよお前らはよぉおおおっ!!!!!!!!!」

強盗の脅しかたにダメ出ししてる俺とユカに向かって、強盗は泣きそうな顔で怒鳴りつける。

「どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!
だったらこれでどうだ!」

強盗はそう言いながら、無防備なユカに向かって素早く腕を伸ばし

「あっ…くぅ!」

片手でユカを羽交い締めにし、もう片手でユカの喉元にナイフを突きつけた!

「早く金を出せ!さもなくば、このか弱い女子高生を刺してやるぞ!いいのか!」

すると店員は

「や、やめろぉお!そんなメチャクチャに可愛くて美人な子を人質にするなんて卑怯な!

お前、それでも男か!」

「うるせぇ!どうせ人質にするなら弱そうな人間を選んで当然だろうがっ!」

「チクショー!お前マジで許さねぇからな!

あの…人質の女子高生さん…!

俺、なんとかして…なんとかして、君を助けるから!

だから、君を無事に助けることができたら…

俺と、付き合ってください!!!!!!!!!」

「おいおい店員、それは無理な話だぜぇ~。
この女子高生は、俺が強盗を成功させた暁に、俺と一緒に逃げるんだよ~!」

「ざけんなコラァアアア!
一緒に逃げるってことは…お前…!

常に二人きりで逃避行するってことじゃねーか…!

マジでふざけんなよマジでコラァアアア!!!!!!」

…あれ?なんか、さっきから論点がズレてきてない?

≪第20回≫妬みの視線

「ふんふーん♪」

時が経ち、自宅を目指している俺の横に、なぜかユカが鼻歌混じりに付いてきている。

「嬉しいなぁ、まさかユウトくんが会津部に入ってくれるなんて!」

「言っとくけどなぁ、俺は無理矢理に入らされただけなんだからな!

べ、別に勘違いしないでよね!アンタのためじゃないんだからね!」

「まぁまぁ、会津部はきっと、ユウトくんも気に入るはずだ!」

「気に入る予感が1ミクロンも感じられない」

などと不毛な会話をしながら歩いていると、何やら周囲の視線を感じ始める。

周囲にいる、町の人間A、町の人間B、町の人間Cどもが、口々に呟いている。

「うわ、あの女の子、超かわいい…」

「いいな、あんな美人と一緒に歩けるなんて…」

「それと引き換えに、隣にいる男は何?
なんで、あんな美人と歩けてるのに目が死んでるの?」

「枯れ果ててるのか?
あの男は、若くして枯れ果ててるのか?」

超露骨。超うぜぇ。

まぁ正直、ユカは可愛い。かなりの美人だし、スタイルもいいし胸もデカイ。(露骨)

だが、美人であればある程、過去のユカを知っている俺はどうしても萎えてしまう。

あの、無抵抗でいじめられまくりで、顔面ぐちゃぐちゃにして俺に泣きついてきた時の、どうしようもない、ただただ同情してもらうことに生き甲斐を感じていたかのような、人間として腐り果てていた時のユカを思い出すとなぁ。
(露骨)

しかし、あんなユカが、現在はどうしてこんなにも変化したのか…。

なんか、会津に目覚めたお陰だとか、そんな意味不明なことを言っていたような。

などと考えているうちに、帰宅前に入ろうと思っていたコンビニに着いた。

俺がコンビニに入ると、当たり前のようにユカも付いてきた。

ていうか、なんで付いてくるの?
犬?犬なの?

「ユウトくんは、コンビニで何を買うタイプなんだ?」

「ほっとけ。別になんでもいいだろ」

そう言いながら、俺は目的の物を手に取る。

「おお!スルメか!ユウトくんはスルメが好物なのか?」

「うぜぇ。少なくとも、お前よりもスルメの方が好きだよ」

などと言いながらレジに並び、俺はスルメを購入する。

その時。

突然、サングラスにマスク姿の、明らかに怪しい人間が店内に入ってきた。

そして、手に持っているナイフを店員に突きつけた。

「金を出しやがれ!さもないと、このナイフで刺すぞコラァ!」

店員は怯えながら叫ぶ。

「ひぃいい!命だけはー!」

あ、強盗だ。

強盗と店員のやり取りを見て、俺は一言。

「さて、スルメを買ったから帰ろ」

その瞬間、強盗と店員は同時に叫ぶ!

「この状況でなにを普通に帰ろうとしてんだテメェぇえええ!!!!!!!!!」

「え?なに?帰っちゃ駄目なの?」

すると、ユカは俺を一瞥して言う。

「さすがユウトくん!
目の前にコンビニ強盗がいようとも、自分に関係なさそうなら普通に帰ろうとするとは!」

なに?褒めてんの?
それとも遠回しにディスってんのか?

そして強盗は、再び強盗活動を再開させる。

「そ、それはそうと、早く金を出せやコラァ!」

≪第19回≫強くなれる理由を知った。

会津部に入部しないと心臓が締め付けられるという呪いをかけられた俺を見て、ヒロコ先生は言う。

「ユウトくん。貴方は、この部活に必要な人間なのよ。お願い。どうかこの部活の部員になって…」

「だから、なんで俺なんだよ!?」

そう絶叫する俺に、ミコは一言。

「アンタが入部すれば、人数が揃うのよ。そしたら、改めて会津部は部活動を正式に始められるってワケ」

「ただの人数合わせかよ!だったら他の奴を入れろよ!」

すると、部長であるユカは

「ユウトくんでなければ駄目なんだ…人数合わせなんかじゃない…」

「だから、なんで俺なんだよ!
何度も同じことを問わせるなよ!」

すると、ヒロコ先生は

「それは、これから分かっていくと思うわ。
全てはね、宇宙の意志なのよ。

宇宙のエネルギーが、ユウトくんをこの部活へと導いたというわけなのよ」

意味わかんねぇえええっ!

「あ、ちなみに、この私。
保健室の先生であるヒロコ先生が、この会津部の顧問よ。

よろしくね~」

「なんで保健室の先生が部活の顧問やってんだよ!」

「全ては、この会津部を作るため。

私はその決意のもと、校長に色じがけ…いや、真剣に懇願して、この部活を作ったのよ~」

「そもそも、なんだよ会津部って!?

女のサムライ、鉄道マニア、巫女、常に食ってる女、そのメイド…

そんなヤツらを集めて何しようってんだよ!」

すると、ユカが腕組みをして言う。

「全ては、会津の為だ!」

会津の為?なんだよそれ」

会津部とは、歴史、神社仏閣、鉄道、グルメなど、様々な魅力がある。

それらを再発見するのが、この部活のメイン活動なんだ」

「なんでそこまで会津にこだわるんだよ。
会津の魅力だぁ?

そんなもん知らねぇし」

すると、ユカは俺を見据える。

「私は…ユウトくんが知っての通り、元々はいじめられっ子だった。

しかし、この会津の歴史に触れた時に、強くあらねばと決心することができた。

そして私は、こうして強くなることができた…」

イケメン男装女子で、なおかつ鉄道マニアであるレツも

「ボクは、会津の鉄道はとても魅力的だと思う。

他の地域にはない、深いものを日々感じているんだ」

ゴスロリ巫女であるミコは

「私は、会津の神社と仏閣が大好きなの。

古くから人々の信仰と共にあったそれらに触れると、とても心が清んでいくの」

人に呪いをかける奴が何を言ってんだよ。

タベコも、メイドから手渡された巨大なおにぎりを頬張りながら

会津はね、美味しい食べ物がイッパイあるんだよぉ~

まず、水と米が美味しい。これまさに最強なんだよぉ~」

ああもう…

俺はため息をつきながら言う。

「で?会津部ってのは、結局なにをする部活なんだよ」

ヒロコ先生は、メガネをクイッと上げる。

「よくぞ聞いてくれたわね!
会津部は、基本、平日は自由!

この部室で、各自好きなことをやってればいいの!

会津の魅力を研究する』という名目で、まぁ自由にしてればいいのよ」

ゆるいなオイ!

「本格的な活動は、主に休日に行われるわ。
どんな活動かは、その時になってのお楽しみぃ~」

…休日が潰れた…

俺は心底、絶望するしかなかった。

≪第18回≫人生に逃げ場など無い

「ざけんなよ、マジで冗談じゃねぇ…!」

俺はこの部屋を出ようと、出口へ向かった。

その瞬間。

「あれ~?新入部員~?」

タイミング悪く、そこから更に1人の女生徒が現れた。

小柄で細身の、おっとりした女子だ。

その女子は、巨大なメロンパンをモサモサと頬張っている。

その女子の後ろから、同じほどの背丈のメイドが顔を出した。

メイドは俺の顔をまじまじと見ながら

「新入部員なのですか?それにしては、ものすごく嫌そうな顔をしてますよ?」

ていうか、なんでメイドが学校に居るんだよ!?

そう思いながらメイドをガン見していると、メイドは俺にペコリと頭を下げた。

「なぜ学校にメイドがいるのか、と言いたげですね。
私は、『タベコ』様のメイドなのです…。

あ、タベコ様というのは、今ここで巨大なメロンパンを召し上がっている、このお方のお名前でして…。

タベコ様は、ご家庭がお金持ちなので、私がこうしてご家庭でも学校でも、身の回りのお世話をさせてもらってるのですよ」

するとタベコなる女は、俺に向かって片手を挙げる。

「私、食べるのが大好きなタベコだよ。
よろしくね~。ユウトくん」

コイツ…何故、俺の名を…。

すると、列車の時刻表が大好きな、イケメン男装女子が俺に向かって言う。

「ボクは『レツ』だよ。よろしくね、ユウトくん。
ちなみにボクは『この部活』の副部長だよ。

ちなみに、自分で言うのもなんだけど、ボクは鉄道マニアなのさ…ふふっ」

続いて、ゴスロリ女までもが

「私は『ミコ』っていうの…。
家が神社でね。巫女をやっているわ」

名前がそのまんまじゃねぇか!

そして、ユカまでもが俺に向かって言う。

「改めて、自己紹介しよう。

私『ユカ』は…。

この部活…

すなわち『会津部』の部長なのだ!
というわけで、よろしくな!ユウトくん!」

俺は大きく息を吸い込み、そして大声で言う!

「はい、よろしくじゃありませーん!

俺は部活になんか入りませーん!

帰りまーす!それではサヨウナラ~」

そう言って、ここから出ようとした

その瞬間…!

「ぐっ!くるし…
心臓が…ぐるじい…」

俺は胸を押さえてうずくまる。

ミコは、俺を見おろしながら言う。

「あらかじめ、アンタの姿を真似た人形を作っておいたわ。

この部活に、アンタを入れるためにね。

この人形は、アンタそのもの。

この部活から逃げようとすれば、この人形に私の神通力が作用して、アンタの心臓が締め付けられるという呪いをかけておいたの。

どう?この人形…アンタに似せてありながら、なかなか可愛いと思わない…?」

ミコはそう言いながら、俺に人形を見せつけてくる。

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…。

いや、ぜんぜん可愛くねぇよ!
つーか、全然、俺に似てねぇええ!