俺の手によって口に石を突っ込まれ、顎に膝蹴りを受けて倒れたそいつに向かって、不良たちは全力で駆け寄る。
「斎藤ぉおおー!!大丈夫か!しっかりしろ!」
「斎藤!目を覚ませ!頼むから!」
「ちくしょう…!斎藤の目、瞳孔が開いてるぞ!もう駄目なのか!?」
どうやら、そいつは斎藤というらしい。
どうでもいいけど。
不良たちは斎藤を抱き抱え、涙を流しながら口々に叫ぶ。
「斎藤…お前はいい奴なのに!
なんで、こんな目に遭わなきゃなんないんだよぉ…!」
「ああ、斎藤は本当にいい奴だ!
俺が教科書を忘れて慌ててたら、斎藤が机をくっつけてきて、自分の教科書を一緒に見せてくれたんだ!」
不良が真面目に授業受けてんじゃねーよ。
「俺だって、斎藤に親切にしてもらったことがある!
俺が本屋でエロ本買うのを躊躇ってたら、斎藤が教えてくれたんだ!
『健全な雑誌二冊を使って、その真ん中にエロ本をサンドイッチして買うと、そんなに恥ずかしくなくなるぞ』
って!」
いまどきエロ本とか買うなよ。
ネットで見ろよ。
「俺だって!
この転校生を、集団でフルボッコしたいけど、転校生を呼び出すのを躊躇ってたら、斎藤が言ってくれたんだ!
『俺があの転校生を呼び出すから、お前らは体育館の裏で待ってろよ。大丈夫、必ず連れてくるから。
心配しないで待ってろ。な?』
って!
斎藤、お前は本当にいい奴だぁああー!」
いい奴は、そもそも転校生1人を不良だらけの体育館の裏に呼び出したりしない。
「斎藤!俺たちは、お前が大好きだぁー!」
「斎藤!斎藤ぉー!」
「斎藤斎藤斎藤斎藤斎藤斎藤ー!!!」
そんな不良たちに、俺は一言。
「なんか知らないけど、もう帰っていい?」
「帰っていいワケねーだろうがぁああああああ!
斎藤をこんな目に遭わせやがって!
絶対に許さねーぞ!」
「いや、自業自得だし。
先に絡んできたのはソイツだろ」
「だからって口に石突っ込んで砕くとか、普通にやり過ぎだろ!
サイコパスかお前は!
北●鮮の公開処刑じゃねーんだぞ!」
「うるせーなぁ。だったらどうすりゃいいんだよ」
すると、不良のひとりが俺の前に歩み寄る。
「お前が、斎藤よりも酷い目に遭ってくれりゃあ許してやるよ」
他の不良たちも、俺の周囲に歩み寄ってきた。
あ、完全に囲まれた。
ヤバイかも、これ。
そう思った瞬間、俺の脳裏に懐かしい映像が甦った。
『ユウトく~ん!
アタシ、また学校でいじめられたよぉ~!
もう嫌だよぉ!いじめられたくないよぉ~!』
遠い昔…。
学校でいじめられるたびに、俺に泣きついてきたアイツ。
「ったく、なんでこのタイミングであんなこと思い出すんだよ…」
俺がそう呟くと、目の前の不良が
「お前は、ただ黙って俺らにフルボッコにされてろやぁああああ!
喰らえや!俺の、斎藤を想う『友情パンチ』だ!!!!!!
ボケコルァアアアア!!!!!!」
そう叫びつつ、俺に向かって拳を振り降ろした。
あーもう駄目かもー。
もう武器も何も無いし、もちろん味方もいない。
仕方ない。諦めるかな。