会津部の時間ですよ!

会津に夢も希望も抱いていない主人公が、会津を楽しむための部活に強制入部させられる物語。(※この物語はフィクションです。たぶん)

≪第10回≫部活とは。

ヒロコ先生は、椅子に座りながら足を組み替える。

「ところでユウトくん、あなたは入りたい部活、決まったの?

うちの高校は、何かしらの部活に所属しなきゃいけない決まりでしょ?」

「そうだな~。ひとつだけ、どうしても入りたい部活があるんだよ」

保健室のベッドで横になっていた俺は、そう言いながらヒロコ先生を見る。

「俺さ、その部活にさえ入れれば、もう他には何も望まない。そのぐらい、その部活がいいんだ。俺は」

「え、なんだか意外~。
ユウトくんが入りたい部活があるなんて…」

「教師がそんなこと言っちゃ駄目だろ。
俺、この高校に来る前から、ずっと考えてた。

青春を謳歌するためには、部活は必須だろ?
俺さ、その部活に入れれば、高校生活は充実したものになる、って思ってる…!」

「ユウトくん…そんな真剣な眼差しを向けられたら、先生…ドキドキしちゃう…。

教えて頂戴?どの部活がいいの?」

そう問われた俺は立ち上がる。
背筋を伸ばし、キリリとした瞳でカメラ目線をする。
(カメラの場所は、だいたいこの辺りだろう)

そして、大きく息を吸い込み、答えた。

帰宅部だ。
俺は、帰宅部に入りたいんだ………!」

ヒロコ先生は、熱い眼差しを俺に向ける。

帰宅部…!
そうね、そこならユウトくんが本領発揮できるわね!

帰宅部、素敵!
先生、ユウトくんを応援しちゃうわ!

………なんて言うワケないでしょー!!!」

「は?なんで。生徒が部活に入りたいって言ってんだから応援しろよ」

帰宅部て、それ部活ちゃいますやん!
ただ帰宅してるだけやん!」

「なんで関西弁!?
別にいいだろ、学校終わったら帰りたいんだよ!

部活なんて誰がやりてぇんだよ!
やる意味が全く分からねーんだよ!

だりぃ、めんどくせぇ!」

「えー、でも、何かしらの部活に入るのは決まりだし…」

「だったら幽霊部員でも許されるような部活にでも入るわ。
第一、学校だけでもダリィのに、くそ部活なんかやってらんねーんだよ」

「んもぅ、困った子ねぇ~」

「何とでも言えば~」

体育の授業が終わったようなので、俺は振り向きもせずに保健室を後にしたのだった。

≪第9回≫うつし世は夢

俺は、女子にキャーキャー言われているユウト2号を眺めながら言う。

「まぁ、これはこれでいいのかも…

ユウト2号が俺の代わりに体育出たり、学校行ったり、授業受けたりテスト受けたりしてくれたら、俺自身は何もしなくても得するワケなんだろ?」

「ユウトくん…全てのことを他人にやらせる気マンマンね」

そう言うヒロコ先生に、俺はうなずく。

「人生のほとんどのことは、ただ単に他人にやらされてることだろ。
だから、めんどくさくてやってらんねーの。

ああやって、ユウト2号みたいに、自分の代わりに『やらされてること』をやってくれる奴が出てくるのを、もしかしたら俺は待ってたのかも…」

「あ、でもね、ユウト2号…もとい、宇宙からきたコピーアンドロイドには弱点があってね」

「弱点…?」

「そう。あまり充電してなかったから、そろそろ、かしら…」

ヒロコ先生はそう言うと、校庭のユウト2号に視線を移す。

すると、先ほどまで体育のサッカーで一番活躍していたユウト2号は、突然その場にしゃがみ込む。

「あれ?どうしたユウト?」

そう言う体育教師に向かって、ユウト2号は一言。

『だりぃ…めんどくせぇ…』

そう呟き、校庭の隅にノロノロと歩いていき、ゴロンと横になった。

『はぁ……体育とか、マジでやってらんねーの』

その瞬間、教師とクラスメイトたちは口々に呟く。

「あ、いつものユウトになった………」

俺はその様子を見ながら

「あれ?ユウト2号がやる気ない奴になったぞ」

ヒロコ先生は、人差し指を立てる。

「説明しましょう!

ユウト2号、もとい宇宙のコピーアンドロイドは、バッテリーが少なくなると、自動的に『少エネモード』に入るってワケなの!」

少エネモードって、スマホじゃねぇんだから。

「つまり!」

「…つまり?」

すると、ヒロコ先生はため息をつく。

「…ユウトくん自身は、普段から『少エネモード』で生きてるってわけね。」

「やかましいわ!!!!」

≪第8回≫モテる男

「きゃーっ!ユウトくん、かっこいい!」

「こんなにも運動神経が良かったなんて意外過ぎぃ!」

「目が死んでなくて、イキイキした目をしてるユウトくんって、こんなにイケメンだったんだぁ~!」

「アタシ、ユウトくんのファンになりそうー!」

校庭でサッカーをしつつ、華麗に舞うユウト2号は
意外にも人気が出た。

サッカーボールを足で操りながら、蝶のように舞い、蜂のように刺す。

保健室から女子たちの黄色い声を聞きつつ、俺は顔を覆う。

「もうやだ…。色んな意味で自分が否定されまくってる…」

「ユウト2号、最高じゃない。
女子にも男子にも人気が出てるわよ~」

ヒロコ先生は、人の気も知らずにのんきに体育を鑑賞している。

「恥ずかしすぎ…もう学校行けねぇ」

まさか、体育をサボった結果にこんな仕打ちを受けるとは思わなかった。

校庭からは、活発なクラスメイトたちとユウト2号の声が響いてくる。

「ユウト、パス!」

『任せろ!シュートだ!』

「ユウトくん、かっこいいー!」

「女子ー、うるせぇぞー!
でも、今日のユウトはマジで最高だぜー!」

俺にできることは何も無く、ただ校庭を眺めているだけだ。

その時、女子の1人にサッカーボールが飛んで行った。

「きゃあっ!」

恐怖で、反射的に目を瞑る女子。

『危ないっ!』

ユウト2号は素早く前に出て、サッカーボールを胸で受け止めた。

宙に飛び、そして落下してきたボールを、ユウト2号は器用に数回リフティングしてみせる。

そして『ヘイ、パス!』と言いながら男子にボールを蹴って見せた。

ユウト2号に守られた女子は、ユウトの背中を眺めながら、目がハートマークになっていた。

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画像提供:いらすとや

≪第7回≫スポーツマンの誕生

俺はヒロコ先生に向かって叫ぶ!

「ふざけんなよ!こんな、俺の姿をしたテンション高いヤツが、クラスの奴らと一緒に体育なんかしてみろ!

絶対に面倒なことになるぞ!」

「だ、大丈夫よぅ、きっとユウトくんは人気者になれるわよ~」

「なんでだよ!このご時世にテンション高い奴なんか受け入れられるワケねーだろ!
少しは空気を読めよ!」

その瞬間

『やめろ!ヒロコ先生をいじめるんじゃない!』

と、ユウト2号が俺の前に立ちはだかる!

「ゆ、ユウト2号くん…」

ウットリした目つきでユウト2号を見つめるヒロコ先生。

『ヒロコ先生は、君のために頑張ってくれているんじゃないか。
その清らかな心に、俺は応えたい』

「この女の心の、一体どこが清らかなんだよ!
トラブル起こす気マンマンじゃねーか!」

『そんなことはない!ともに、ヒロコ先生を信じようじゃないか!』

「ふざけんなよテメェ!この女と組んで勝手なことすんなよ!」

その瞬間、ヒロコ先生が俺とユウト2号の間に割って入る!

「二人とも、やめてー!
私のために、争わないでー!」

「お前のために争ってねぇよ!」

そう食ってかかろうとする俺を、ユウト2号は制する!

『ごめんなさい、ヒロコ先生。
貴女が美しすぎて、ついムキになってしまった…』

ユウト2号は、そう言いながら頬を赤くする。

そして

『ああ、美しい女性のためにムキになってしまった自分が恥ずかしい!

ちょっと外でサッカーして、頭を冷やしてくるよ!』

と言いつつ、校庭に向かって全速力で走っていった!

『おーい、みんなー!
俺も一緒に混ぜてくれよ!

一緒にサッカーしようぜー!』

その瞬間、ユウト2号を見るクラスメイトたち全員の表情が固まった。

ああ、もう、そうなるよなぁ…

俺はその場に崩れ落ちた。

≪第6回≫もう一人の自分

ヒロコ先生は、口元に笑みを浮かべながら俺を凝視する。

「ところで、ユウトくん…」

「え、なんで俺の名前しってんの。アンタに名乗った覚えは無いんですけど」

「わざわざ都会から会津に引っ越してきた物好きなんて、もう教師は全員知ってるわよ~」

「いや、だから、別に好きで会津に来たワケでは」

「それはそうと、校庭では体育の授業が始まったみたいね?」

ヒロコ先生はそう言いながら、校庭に視線を移す。
クラスメイトたちが、体育の男性教師と共に準備運動をしている。

「準備運動のあとには、何が始まるのかしらね?」

「あーなんか、男女混合でサッカーやるとか…」

「男女混合でサッカーだなんて、なかなかいやらしい発想ね…
あの体育の先生、体育と保健体育をも混合し過ぎなんじゃないの?うフッ…」

うフッ…じゃねーよ。
どこをどう考えればやらしいんだよ。

「サッカーだなんて、ダルいしウザイったらねぇな。
やっぱりサボって正解だったわ~」

俺がそう呟くと、ヒロコ先生が

「あ、そうだわ!」

と声をあげると同時に、指をパチン!と鳴らした。

その瞬間

ガシャアン!!!

「!?」

保健室のガラスを突き破り、一人の人間が乱入してきた。

「な、なんだ、コイツは…」

俺は思わず声をあげる。

乱入してきた人間は、俺と全く同じ姿をしていた。

ガラスを突き破って乱入してきたそいつは、受け身を取ると同時に1回転して着地した。

そして俺たちに向かってキメポーズを取ってみせた。

『どうも!ユウトくんのコピーアンドロイド、ユウト2号です!』

そいつの声はやや電子音がかっているが、俺と同じ声のくせにハイテンションな言動をする。

『いやぁ、今日はとはてもいい天気だね!
まさにサッカー日和だと思わないかい?』

よく見ると、ユウト2号はすでに体育着の姿になっている。

ヒロコ先生は、ユウト2号と俺を見比べる。

「いやん、ホントにそっくりだわ~。

この『ユウト2号』はね、私が宇宙から持ち込んだ『コピーアンドロイド』でね。コピーしたい人間の容姿、声をコピーできるのよぅ」

「性格は、ぜんぜん俺にコピーできてないみたいだけど」

「あえて、ユウト2号の性格はユウトくんとは正反対にしてみました~!」

嫌な予感がする。

「一体、何が目的でユウト2号を作った?
しかも体育着だし、サッカー日和とかほざいてんぞ」

「もちろん、ユウトくんの代わりに、ユウト2号を体育の授業に参加させるのよ~!」

嫌な予感が的中した。

≪第5回≫心のわかだまり

「ふーっ」

俺は保健室のベッドに寝転がり、図書室で借りていた本を開く。

「あら、本が好きなの?珍しいわね」

そう言う保健室の先生に、俺は

「別に珍しがられても…って感じ…」

「ねえ、さっきまで死んだ魚のような目をしてたけど、本を見てるときは目つきが違うのね」

「は…?」

「ねえ、話してくれない?
あなたには、悩みがありそうに見えなくもないわね」

「別に…悩みがあったとしても、わざわざ人に話すような悩みでもないよ。

ましてや、保健室の先生に悩み相談なんて、ベタすぎるだろ」

すると先生は、俺の顔を覗き込みながら言う。

「私の名前は、ヒロコっていうの。
ヒロコ先生とでも呼んでちょうだい」

「………」

「なあに?キョトンとして」

「いや、ヒロコ先…生って、ちゃんと保健室の先生ぽい顔できるんだな、って思って…」

「んもう、失礼しちゃうわ。
それで、話してくれる?

キミの悩みを」

「なんでそんなに、俺の悩みを聞きたいの」

『保健室の先生として、生徒の悩みを聞くのは当然のことだ』

俺は、そういう回答を予想していた。

するとヒロコ先生は、自分の豊かな胸に手を当てながら言う。

「私はね、遠い宇宙からやってきた、地球外生命体なの。

地球上の生命体…つまり、あなたたち『地球人』を調査するために、この『会津ひだまり高校』に、保健室の先生として忍び込み、こうやって生徒たちの悩みを聞いたりしながら地球人を調査しているのよ」

おっと、いきなりファンタジックな妄想話をぶっぱなしてきやがった。

俺は一言。

「そんなワケねーだろ。しばき倒すぞ」

「ふふっ、信じるか信じないかは、アナタ次第…」

ヒロコ先生は、そうつ呟きながら
怪しく笑った。

≪第4回≫保健室での戯れ

「失礼しまーす。体調が悪いので休ませてくださーい」

俺は、やる気の出ない体育の授業をサボるために保健室を訪れた。

今日が初めての保健室デビュー日。
ちゃんとサボらせてくれるかな。わくわく。

すると、椅子に座っていた、保健室の先生らしき人物が振り向いた。

「あら、大丈夫…?具合悪いの…?」

そう言う保健室の先生らしき人物は、白衣を着ているものの、白衣の下に着ているスーツは胸元が大きく広げられ、立派な胸の谷間を覗かせている。

しかも、なぜかスカートがやけに短い。そこから覗く、すらりと延びた長くしなやかな脚は、ブラウン色のストッキング。

足元はハイヒールだ。

「エロ漫画に出てくる保健室の先生かテメーは!!!!!!」

あ、やばい。
あり得ない光景に、俺は思わず叫んでしまった。

すると先生らしき人物は、メガネをクイッと上げながら俺を見上げる。

「具合が悪いんじゃなかったの?

具合の悪い人間が初対面である保健の先生に、するどいツッコミを入れるなんて聞いたことがないわよ…?」

そう言いながら脚を組み代え、ウェーブのかかった長い髪をかき上げる。

結局『保健室の先生』なのかよ。

むしろ、保健室の先生のコスプレをしたキャバクラ嬢だと言ってくれたほうが違和感なかったわ。

ため息をつく俺に、保健室の先生はニヤリと笑みを浮かべながら言う。

「ま、いいわ。他に誰もいないんだもの…」

そして立ち上がり、ヒールをコツ…コツ…と鳴らしながら俺に近付いてくる。

そして至近距離に、いや、密着するような距離感になり、その細い人差し指で俺の胸元を軽く突つき、俺の目を覗き込みながら微笑む。

「ちょっと、先生の相手を、し・て・く・れ・る…?」

パァアアン!!!!!!

「きゃんっ!」

次の瞬間、俺は履いていた上履きで
保健室の先生の頭をひっぱたいていた。

「痛ぁい!な、なにするのよぅ!?」

頭をおさえて床にしゃがみ込む先生。
そんな先生を、俺は見おろす。

「なにするの、は、俺のセリフですよ先生。

男子高生が誰でも、そういう身の振る舞いをすれば喜ぶと思わないで欲しいですね。

で、どうするんだ…」

先生は、涙を浮かべながら首をかしげる

「ど、どうするって…?」

「言わなきゃ分からないのか、この痴女が。

俺を保健室で、授業をサボらせるのか、サボらせないのか。

返答次第では、アンタを再び、しばく」

「えっ…!そんな強引なこと…!」

「黙れ。お前には最初から『はい』と言う選択肢しか存在しないんだよ。いいから言えよ。

ひとこと『はい』と」

「…………はい…っ…」

そう言う先生は、なぜか頬を赤らめ、微妙に嬉しそうな表情をしていた。