ヒロコ先生は、椅子に座りながら足を組み替える。
「ところでユウトくん、あなたは入りたい部活、決まったの?
うちの高校は、何かしらの部活に所属しなきゃいけない決まりでしょ?」
「そうだな~。ひとつだけ、どうしても入りたい部活があるんだよ」
保健室のベッドで横になっていた俺は、そう言いながらヒロコ先生を見る。
「俺さ、その部活にさえ入れれば、もう他には何も望まない。そのぐらい、その部活がいいんだ。俺は」
「え、なんだか意外~。
ユウトくんが入りたい部活があるなんて…」
「教師がそんなこと言っちゃ駄目だろ。
俺、この高校に来る前から、ずっと考えてた。
青春を謳歌するためには、部活は必須だろ?
俺さ、その部活に入れれば、高校生活は充実したものになる、って思ってる…!」
「ユウトくん…そんな真剣な眼差しを向けられたら、先生…ドキドキしちゃう…。
教えて頂戴?どの部活がいいの?」
そう問われた俺は立ち上がる。
背筋を伸ばし、キリリとした瞳でカメラ目線をする。
(カメラの場所は、だいたいこの辺りだろう)
そして、大きく息を吸い込み、答えた。
ヒロコ先生は、熱い眼差しを俺に向ける。
「帰宅部…!
そうね、そこならユウトくんが本領発揮できるわね!
帰宅部、素敵!
先生、ユウトくんを応援しちゃうわ!
………なんて言うワケないでしょー!!!」
「は?なんで。生徒が部活に入りたいって言ってんだから応援しろよ」
「帰宅部て、それ部活ちゃいますやん!
ただ帰宅してるだけやん!」
「なんで関西弁!?
別にいいだろ、学校終わったら帰りたいんだよ!
部活なんて誰がやりてぇんだよ!
やる意味が全く分からねーんだよ!
だりぃ、めんどくせぇ!」
「えー、でも、何かしらの部活に入るのは決まりだし…」
「だったら幽霊部員でも許されるような部活にでも入るわ。
第一、学校だけでもダリィのに、くそ部活なんかやってらんねーんだよ」
「んもぅ、困った子ねぇ~」
「何とでも言えば~」
体育の授業が終わったようなので、俺は振り向きもせずに保健室を後にしたのだった。